ショートショート#2



ショートショートサロン 課題 #2 / 「月」と「卒業」







2018.10.09




ひとあしおさきに





辛い時はそっと部屋に入ってきて



何を言うわけでもなく、背中をそっとくっつけて一緒にいてくれた





私が出かけると言えばものすごく寂しがって

ただひたすらに帰りを待っていてくれた







色々な世界を見せてあげたいと、たくさんの場所に行って







そう遠くなく終わりは来てしまうと最初からわかっていながら



これから先、嬉しいことも辛いことも

一方的に話すことを全部、聞いてほしいと思った










くるくるしていてふわふわの小さな体を

ぎゅっと抱きしめることが幸せだった




きみは、しあわせだっただろうか?





すこし陽が傾いた

広すぎる空に立ち上る細い白い線を目で追いながら


瞬きをしなくても流れ落ちる感情を抑えられない



きみはどこに行くの?





真っ白な部屋



目の前に綺麗に並べられた白い破片を


ひとつひとつ、ちいさな骨壷に運んでいく



何もなくなっていく







この蓋を閉めてしまったら



本当にお別れ





「骨をひとかけら、持っていかれますか?」











そばで見ていた女性が、小さなキーホルダーを手にそう言った。









シルバーの楕円型のカプセルがついたキーホルダー。






「人の場合は、この世に未練が残ってしまうので骨を残すということはあまりしないのですが、わんちゃんの場合は体も小さいですし、ね。


少しでもそばにと、お持ち帰りになる方もいらっしゃいますよ。」














受け取ったそれはひんやり冷たい


無機質な物体。







蓋をあけ、小さな骨を一つ入れる。







戸惑いながらも言われるがままに蓋を閉め、


手のひらを眺める。












「なんだっけなぁ、これ。」



あぁ、そうだ。

それはいつか映画で見たような宇宙船に見えた。








家に帰ったら、きみがお気に入りだった窓辺のクッションに置こう。










大丈夫、終わりじゃない。









もしいつか人が月に住むような時代が来ても


このカプセルならば、連れていける。

..

まいにちを 積み重ねて まいにちのきおくを 積み重ねて かいて 振り返れば 結構おもしろい人生だった そんくらいでいいです。

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