はじめましてのショートショート
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ショートショートサロンに参加してます^^
小説だけど、特に短いショートショート。
140文字からでも小説と呼べるのだそーだよっ
短くて不思議な物語
課題をこちらにも載せていこうと思いまする🙆
2018.09.30
妥当な値段
部屋の片隅で積み重なる布、布、布…。
「週末こそは片付けなくちゃ…」
重たい頭を重力に逆らわせるかのように立ち上がり、布の山から一枚取り出す。
なぞるだけで精一杯の毎日では、何かがすり減っていく気がする。
とにかく楽しくてやる気が湧いていた仕事も、最近はどうにも調子が出ない。
価値があると思っていた自分の値段は、本当はいくらなのだろう。
引っ張り出したこの服だって、一生懸命働いたご褒美だった。
お会計を済ませ紙袋のリボンをつかんだ瞬間の、『手に入れた』感覚。
そんな輝きを持っていたこの服は、わたしのものになって一気に市場価値を失ってしまった。手に入れる前は明確に値段がついていたのに。
増え続ける衣服を処分しようと、オークションや古着回収に出すたびに、店を一歩飛び出した物の値段について考える。
私が手に入れたことで、そのものは価値が下がって。
一体なにがしたいんだろう。
努力して掴み取ったものも、その嬉しさも自信も
次の日には隣に置いて、また走っていかなければならない。
盛り上がった分だけ大きくなる空虚感を抱えて、またゼロから作っていかなければ、と。
「しんど…」
逃げたくてもどこに逃げればいいかわからない。
それを辛抱強いと言ってもらえるなら、それでいいのか。
手に取った一枚の布を見つめる。
この子は、私の手を離れたらどこにいくのだろう。
価値を失って使い古されたあげく
ぽいっ
だろうか。
『価値がなくなったんじゃないの。あなたの一部になったんだよ。』
どこかから聞こえる声にハッとする。
洋服がしゃべるわけ、ない、よね。
『だって一緒に出かけたあのデートのことは、忘れないでしょう。』
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